名古屋高等裁判所 昭和27年(う)522号 判決 1952年6月23日
控訴人 被告人 米山栄一 外二名
弁護人 石浜美春 外一名
検察官 小西茂関与
主文
原判決を破棄する。
本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。
理由
本件控訴の趣意については弁護人石浜美春及び同武藤鹿三各提出に係る控訴趣意書の記載を引用する。検察官は本件各控訴は理由のないものとしてその各棄却を求めた。
仍て職権を以て調査するに一件記録によれば原審はその判示事実を認定する資料として一、近藤広の被害上申書一、司法警察員作成の赤塚清一の供述調書一、司法警察員作成の被告人等に対する各供述調書一、検察事務官作成の李浩亀、許斗植に対する各供述調書を挙示しているのであるが原審に於ける本件審理の経過によれば、公判期日は三回指定せられているものなるところその第二回公判期日の調書を検するに同調書には右公判において審理を担当した裁判官の署名押印又はこれに代るべき認印もなく更にその公判審理に立会つた裁判所書記官補による裁判官の署名押印又は認印不能なる事由の附記も存しないのであつて斯る調書は未完成のものとして未だその本来の効力を発生せざる無効のものと解する外はないのである。而して右第一回の公判期日は被告人等の不出頭によつて何等の審理なくして延期されたものであり又その第三回公判期日は所謂言渡期日として単に裁判官の裁判言渡がなされた丈に過ぎない。従つて原審が判示事実認定の資料として挙示したものが証拠能力を有し且つ適法な証拠調を経たものであることを認むるに由なきものでありかかる資料を以て事実を認定したのは違法であつてその違法は判決に影響を及ぼすこと明であると云うべく原判決は各論旨を判断する迄もなく刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十九条によつて破棄を免れない。而して本件については直ちに当審において判決するに適しないから同法第四百条本文に則つてこれを原審名古屋地方裁判所に差戻すべきものと認めて主文の通り判決する。
(裁判長判事 河野重貞 判事 山田市平 判事 鈴木正路)
(控訴趣意は省略する。)